2026年7月13日号

健康産業への視点

なぜ、人は運動を続けられないのか

●多くの人の心理は「やらないこと」に基本設定されている

皆さん、こんにちは。健康産業に携わる人であれば、「どうしたら健康づくり(文脈上、以下運動に統一)を続けてもらえるのか」を一度は考えたことがあるでしょう。もっともそこには自発的に考える人もいれば、会社や上司に言われて受動的に考える人もいます。書いていて思いましたが、実は「ほとんどの人が考えたことがない」のかもしれません。だから平気で現場を無人化したり、省力化したりということができるわけです。いずれにせよ、「続かないこと」の実害を受けるのは「続けた方がいいと思っているのに、続けることができない人」です。

 

まず知っておくべきは、運動を習慣にしている人は多数派ではないという事実です。厚生労働省の調査では「運動習慣がある」とされる人は男性で約3割、女性で約3割弱です。つまり、7割前後の人は運動を習慣化できていません。健康産業の中にいると運動することが当たり前に感じますが、世の中では「運動しない人」が圧倒的多数なのです。その現状に対して、無人化、省力化、さらに放置化をすれば、運動が続くのは「自ら運動しよう」と考えられる人だけです。勇気を振り絞ってジムやフィットネスクラブの門を叩いた人が、早期に退会していくのは自然現象といえます。運動を続けられない原因は極めてシンプルです。面倒くさいし、疲れるし、時間がないし、忙しいし、通うのが億劫だからです。こうやって後回しにされていくうちに足が遠のいていきます。

 

そして何よりも重要なのは、病気になったり、からだに大きな不調が出たりするまでは、本気で困らないからです。なので、足が遠のいても何ら問題ありません。私の同年代を見ても、健康を失って初めて、その大切さに気づいています。だから「運動した方がいい」と頭では理解していても、「今やらなくてもいいか」となり、なかなか行動が起きません。これは意志が弱いからではありません。多くの人の心理は「やらないこと」に基本設定されているのです。にもかかわらず、健康産業は「運動の必要性」とか「自分たちの強み」を伝えることに懸命です。ここにこそミスマッチがあります。多くの人は必要性を知らないのではありません。知っていても行動できないのです。だから重要なのは「どうすれば始められるか」「どうすれば続けられるか」という視点です。

 

●「現場サービスの延長」ではなく、「お客さまの心理」から逆算して考える

この説明でおわかりいただけると思いますが、多くの企業が取り組んでいる「アプリを導入すれば運動が続く」という発想は、本質的な解決策ではありません。皇居の周りを毎日のようにジョギングしている人にとって、アップルウォッチは便利なツールでしょう。しかし、それは「もともと続けられる人」だからこそ役に立つのであり、運動が続かない人にとっては、自宅でホコリをかぶっている健康器具と同じです。いかにも顧客心理を理解していない、理解しようとしない経営陣の発想です。

 

健康づくりに限らず、人が購買したり、行動したりすることの本質はテクノロジーではなく、人間心理にあります。「今、どう思っているんだろう」「こういう時はどう思うんだろう」という心理にフォーカスできない限り、行動を起こすことも、継続させることも難しいでしょう。面倒くさくても行ける仕組み。忙しくても続けられる仕組み。こうした「仕組み」を設計することこそが、これからの健康産業に求められる価値だと私は考えています。「仕組み」とは、担当者が変わっても、お客さまが自然と続けられるように設計された環境のことです。たとえば、予約の取り方、仲間との関係性、トレーナーとの約束、適切な頻度など、「続けたくなる理由」が最初から組み込まれている状態です。属人的なサービスこそが強みと考えている多くのトレーナーやインストラクターにこの発想はありません。

 

だからいつまで経っても「運動をしている人は自分のまわりだけ」という状況が変えられないのです。健康産業に従事する人は「現場サービスの延長」で物事を考えるのではなく、「お客さまの心理」から逆算した仕組みを設計しなければなりません。現場にいると「どうすればもっと良い指導ができるか」「どんなサービスなら喜んでもらえるか」と考えがちですが、その前に多くのお客さまは「今日は行こうか、それともやめようか」と葛藤しています。私たちが本当に向き合うべきなのは、その瞬間のお客さまの心理です。この視点へ転換できるか否かが、これからの健康産業を大きく左右する分岐点になります。では、以下の質問の答えをアウトプットしてから次ページへ進んでください。

 

問1:あなたの商品やサービスは「誰のため」に設計されていますか?

問2:あなたは商品やサービスの品質だけでなく、「お客さま心理」にフォーカスできていますか?

問3:問1、2の回答に対する課題はありますか?あれば今後、具体的にどう解決していきますか?

世の中への視点

創業融資、女性向け41%増

【要約】

地域で起業する女性が増えてきました。2025年度に創業融資を受けた女性は7972人と2015年度比で41.3%増えています。官民の手厚い支援が奏功し、家庭との両立など「働きやすさ」を求めた先の選択肢のひとつになっているようです。

 

●働きにくさ解消へ起業

近年、地域で起業する女性が着実に増えています。日本政策金融公庫などのデータによると、上述のとおり、2025年度に創業融資を受けた女性は7972人が、2015年度比で41.3%増加しただけでなく、女性が占める割合も約3割に達し、山口県や徳島県では4割を超えるなど、地方を中心に女性起業が広がっています。記事によると、女性起業が増えている背景には「家庭と仕事を両立しやすい働き方」を求める人が多いことがあります。経営経験や開業資金がない状態でも、自治体の支援制度、県の女性起業家向け支援、ビジネスコンテスト等を活用することがで、事業を成長させることが可能です。

 

自営業は子育てとの相性が良いこともデータで示されています。国立社会保障・人口問題研究所の調査では、仕事をしていた女性全体の第1子出産後の就業継続率は69.5%ですが、自営業や家族従業者では91.3%と非常に高い水準となっています。この数字は、時間や働き方を自ら決められることが、長く仕事を続けられる理由のひとつであることを示しています。こうした流れを受け、各地で女性起業を支援する取り組みも広がっています。山口県では女性専門の創業支援会社を設立し、相談や研修だけでなく、事業資金の提供まで行っています。徳島県では女性起業家が後輩を育成する起業塾を運営し、島根県でもセミナーなどを通じて女性の挑戦を後押ししています。人口減少や地域産業の縮小が課題となる地方では、女性の起業が地域経済を活性化する重要な役割を担うと期待されています。

 

一方で、専門家は支援のあり方にも注意が必要だと指摘しています。女性起業を支援する理由を「育児や介護との両立」に限定してしまうと、ケアの負担は女性が担うものという固定観念を強める恐れがあります。本来、家庭と仕事の両立は男女共通の課題であり、誰もが柔軟な働き方を選べる社会を目指すことが重要です。今後は、性別に関係なく誰もが挑戦しやすい環境を整え、多様な人材が地域で活躍できる社会づくりが求められています。

 

●私の視点~女性が挑戦している姿を、眺めている場合ではない~

言うまでもなく、本ニュースはとても喜ばしいものです。育児や介護と両立しながら、自分らしい働き方を実現する女性が増えることは、本人だけでなく、地域や社会にとっても大きな価値があります。今後も、この流れがさらに加速していってほしいと思います。ただ、私が本当に期待しているのは、その先です。起業する人が増えること自体がゴールではありません。本当に目指すべきは「起業した人が事業を育てられるようになること」です。

 

もし、起業支援が「会社をつくる」「お店を開く」ことだけで終わってしまえば、自分が働き続けなければ成り立たない個人事業主的な働き方が増えるだけです。それでは地域経済へのインパクトは限定的であり、雇用も生まれにくくなります。この時、その意識改革が最も求められているのは、これから起業する人ではなく、すでに起業している私たち先輩世代ではないでしょうか。

 

時代は大きく変わりました。インターネットやSNS、AIの普及はもちろんのこと、働き方、生き方の選択肢も増えたことにより、ひとりで何かを小さく始めるためのハードルは、大きく下がっています。だからこそ、これから問われるのは「どう始めるか」だけではなく、「すでに始めた人が、それをどう育てるか」だと思うのです。新しく起業する人に「挑戦しよう」と言う前に、先に起業した私たち自身が挑戦し続けているかを問う必要があります。

 

いつまでも過去と同じやり方を続け、そこに微調整を加えているだけでは、後から起業する人たちの見本にはなれません。先輩起業家が学び直し、時代に適応し、事業を次の段階へ進める姿を見せることこそが、最も実践的な起業支援になるはずです。そして、最後に改めて一言。女性の企業は目立ってきたとはいえ、現在の日本では女性よりも男性のほうが、時間的にも現実的な役割的にも明らかに起業するには有利な立場にあります。女性がさまざまな制約を乗り越えながら起業に挑戦している姿を、眺めている場合ではありません。男性側こそ、恵まれた条件を、自分の安定のためだけではなく、雇用や人材育成、地域課題の解決に使う責任があります。では、以下の質問の答えをアウトプットしてから次ページへ進んでください。

 

問1:あなたは自分の時間を何のために使っていますか?

問2:あなたは今持っている経験や立場を、自分のためだけでなく、社会のために活かせているでしょうか?

問3:問1、2の回答に対する課題はありますか?あれば今後、具体的にどう解決していきますか?

今週の一冊

・健康寿命95 

・酒向 正春(著)

・徳間書店

 

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●筋肉を鍛えることは「健康づくり」だけではなく、「人生づくり」でもある

(本内容はnote等にもアップさせていただきます)。ベストセラー「筋肉革命95」の著者であり、「サコーメソッド」の提唱者でもある、ねりま健育会病院院長・酒向正春先生の新刊です。私が感銘を受けていることは多々ありますが、中でも大きな2つが「脳筋連関」と「心の整え方」です。

 

まず「脳筋連関」とは、筋肉を鍛える目的は単に筋力や体力を高めることだけではなく、筋肉を動かすことで脳が活性化し、意欲や認知機能、さらには行動力まで高めていくという考え方です。つまり、脳と筋肉は互いに影響し合いながら健康を支えており、この2つを切り離して考えることはできないという視点です。リハビリテーション医として数多くの患者さんと向き合ってきた酒向先生だからこそ語れる、科学と事実に基づく理論です。

 

「脳筋連関」の先には、さらに大きな価値があります。それが「人間力の回復」です。筋肉革命により脳が活性化すると、人は自然と外へ出かけ、人と会い、新しいことに挑戦するようになります。活動量が増えることで、生活のリズムが整い、表情が明るくなり、周囲との関わりも増えていきます。この人生の変化こそが「人間力の回復」です。筋肉を鍛えることは「健康づくり」だけではなく、「人生づくり」でもあります。筋肉が変われば脳が変わる。脳が変われば行動が変わる。行動が変われば人との関わりが変わる。そして、その積み重ねが人間力を育み、人生をより豊かなものへと導いてくれるのです。筋肉は、健康寿命を延ばすためだけでなく、自分らしく生き続けるための土台でもあるのです。

 

なお、私は筋肉至上主義ではありません。いわゆる「筋肉信者」のように、筋肉を大きくすること自体が正とは考えていません。後半でも述べますが、どれだけ筋肉をつけても、心の状態が整っていなければ、その力を人生に活かすことはできません。また、週に3回も4回もジムに通うことが生活の中心になり、家族との時間や仕事、学び、人との交流など、本来大切にすべき時間を犠牲にしてしまっては本末転倒です。筋量や筋肉は「適度」にあればいいのです。その「適度」を教えてくれるのが、本書216ページに記されている「全国の筋肉革命ジム」ということです。

 

●「筋肉・脳・心」の3つが揃って、本当の意味で健康寿命は延びていく

酒向先生が、もう1つ強く伝えられているのが、「心を整えること」の大切さです。近年、「整える」という言葉をよく耳にするようになりました。しかし、その多くは流行的、抽象的で、具体性がありません。実際、「整える」とか「整った」とか口にしていても、日常ではイライラしたり、不平不満が多かったり、消極的だったりする人を数多く見てきました。

 

本書では7つの観点から、心を整える実践方法が示されています。それは本書で確認いただくとして、私自身が「何をしていると楽しいのか」を改めて考えてみました。思いついたままに記すと、1つは「文章を書いている時間」です。本メルマガもそうですが、ブログを書いていたり、その原案を考えているときです。2つは「仕事の仲間と未来の話をしている時間」です。志を同じくした仲間と、未来を語り合い、行動している時間です。3つは「下半身のトレーニングをしている時間」です。やっている時は苦しいですが、終わった後の爽快感は格別です。

 

そして、4つは「同級生と会っている時間」。5つは「愛犬ムギと過ごす時間」。6つは「仲間と海外旅をする時間(国内旅も含む)」。7つは(2番めに似ますが)「仲間と美味しいものを飲んだり食べたりしている時間」です。こうして書き出してみると、私の日常は「楽しい」と感じる時間に覆われていることに気づきます。

 

そして、私が何よりも大切にしているのが、スモールジムの研修でもお伝えしている「積極心」の考え方です。そこでは「51%理論」という言い方をしています。人は誰でも不安になり、落ち込むことがあります。100%前向きでいることは困難ですし、そこで無理をすることが逆にストレスになったりします。しかし、1%だけでも積極心でいることはできるかもしれない。だから、1%だけでいいから積極的なほうを選ぶ。その小さな積み重ねが、人生を大きく変えていくと私は考えています。

 

「筋肉・脳・心」の3つが揃って、本当の意味で健康寿命は延びていくのです。「健康寿命95」は、健康寿命を延ばし、自分らしく豊かな人生を送るための実践書です。酒向先生が、医師としての豊富な経験をもとに、その重要性をわかりやすく具体的に伝えてくださっています。健康づくりに携わる専門家はもちろん、これからも元気に人生を楽しみたいすべての方に、ぜひ一度読んでいただきたい一冊です。

編集後記動画

当号のポイントを約3~5分の動画で振り返ります。

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編集責任者

・遠藤 一佳

【モットー】

・人生を常に再起動する

・自分の価値観に基づいた人生を生きる

・同志、仲間とともに、社会を良くする活動の一翼を担う存在になる

 【役職等】

・Well-preneur Academy(ウェルアカ)塾長

・(株)スモールジム取締役会長

・JATIキャリア支援委員