健康産業への視点
健康寿命よりも 大切な「人生寿命」 という考え方
●人生寿命は「何年生きたか」ではなく、「何年、自分らしく生きたか」で決まる
皆さん、こんにちは。ここ最近というか、数ヶ月というか、「健康寿命」という言葉を目にする機会が増えたように感じます。おそらく、ほとんどの人が「健康寿命が長い方がいい」と願っているはずです。しかし、「健康とは何か」を考えたことがある人は、意外と少ないのではないでしょうか。わかりやすいのが、世界保健機関(WHO)が示す健康の定義です。健康とは単に病気がない状態ではありません。「肉体的健康(Physical well-being)」「精神的健康(Mental well-being)」「社会的健康(Social well-being)」の3つが満たされている状態を指します。つまり、身体の機能が正常に働いているだけでなく、心が安定し、自分らしく前向きに生きられること。そして、社会やコミュニティの中で役割を持ち、人とのつながりの中で充実した毎日を送れていることまでを含めて「健康」なのです。とても本質的で素晴らしい定義だと思います。そう考えると、どれだけ身体が元気でも、毎日に楽しみがなく、人とのつながりもなく、誰にも必要とされていないと感じながら過ごしている人を「健康である」とは言えないでしょう。
逆に、身体機能に多少の不自由があったとしても、家族や仲間と笑い合い、誰かの役に立ち、自分らしく充実した日々を送っている人を「不健康なのに頑張っている」と表現する人も少ないはずです。そう考えれば、本当に大切なのは「何歳まで健康でいられるか」ということだけではなく、「何歳まで自分らしく人生を楽しみ、社会とつながり、誰かに必要とされながら生きられるか」でがないかと思います。私はこの考え方を「健康寿命」ではなく「人生寿命」と呼びたいと思います。「人生寿命」とは、単に生きている期間ではありません。自分らしく人生を楽しんだ時間が、人生の中に何年あるのかが問われます。
例えば、60歳で定年を迎える会社員の人がいるとします。20代から約40年間働き続けたとして、その間ずっと上司や会社の顔色をうかがい、本当にやりたいことや、自分の価値観に沿った生き方ができなかったとしたらどうでしょうか。その人が自分の人生を生きた時間は未成年・学生時代の約20年だけ。社会人として過ごした時間だけを切り取れば、「人生寿命はゼロ年」です。このことは「その人は死んだも同然」ということを表しています。人生寿命とは「何年生きたか」ではなく、「何年、自分らしく生きたか」で決まります。
●なぜ「もっと筋トレをしておけばよかった」という後悔はないのか
多くの人は「どう生きるか」よりも、「今日をどう過ごすか」「仕事をどうこなすか」に意識が向いており、人生全体を俯瞰して捉える習慣がありません。そして、人生の終わりが近づいたときになって初めて、「もっとこうしておけばよかった」という後悔が生まれます。よく知られている「死ぬときの後悔」には、「もっと自分に正直な人生を生きればよかった」「働きすぎなければよかった」「もっと自分の気持ちを表現すればよかった」「もっと友人との関係を大切にすればよかった」「もっと幸せになることを自分に許せばよかった」といった感情が挙げられています。
ここで私は、あることに気づきました。それは、これらの後悔の中に「もっと筋トレをしておけばよかった」「もっとジムに通っておけばよかった」という言葉がまったく登場しないことです。もちろん、これは運動や健康づくりに価値がないという意味ではありません。むしろ逆です。その価値が社会に十分伝わっていないから、人生の最期にまで結び付いていないのだと思うのです。健康づくりは「病気にならないため」や「医療費を抑えるため」に取り組むものではありません。本来は「人生を楽しむため」にあるものです。もちろん、健康を損なったからといって人生を楽しめなくなるわけではありませんが、人生を楽しめる可能性が減ってしまうことは間違いありません。
だから私は、多くの人が人生の最期を迎えたとき、「私は健康習慣の実践に関して悔いがない!やり切った!」と自然に思えるような社会になってほしいと願っています。それこそが、健康づくりが人生を豊かにするものとして、社会に浸透した証だと思うからです。健康は大切です。しかし、それ以上に大切なのは、その健康を何のために使うのかという視点です。この順番を間違えないことが、人々の「人生寿命」を延ばすことにつながると思います。では、以下の質問の答えをアウトプットしてから次ページへ進んでください。
問1:あなたは健康を「何のため」に手に入れたいですか?
問2:あなたの「人生寿命」は、今、何年くらいだと思いますか?
問3:問1、2の回答に対する課題はありますか?あれば今後、具体的にどう解決していきますか?
世の中への視点
5年早まる多死社会
【要約】
日本人の死亡者数が想定を上回っています。2025年は158万9489人で、将来推計人口の標準的な見通しより7万人以上多かった模様です。「多死社会」は見立てより5年早く進み、火葬場の不足といった新たな政策課題も生まれています。
●カオスのような日本の人口問題
健康関連の話が続きますが、ご容赦ください。2025年の死亡者数である158万9489人は、本来であれば2030年頃に到達すると見込まれていたものであり、「多死社会」は約5年前倒しで進行していることになります。記事によると、背景には平均寿命の伸び悩みがあるといいます。男性は2020年まで長寿化が続いていたものの、新型コロナウイルスの影響で2021年、2022年に平均寿命が短縮。2023年はわずかな回復にとどまり、2024年も横ばいで、新コロ前の水準には戻っていないとのこと。女性も同様の傾向を示しています。国立社会保障・人口問題研究所による将来推計では、新コロによる影響は一時的で、その後は従来の長寿化トレンドに戻ると想定されていました。
しかし実際には死亡率の改善が遅れており、厚生労働省はいまだ新コロの影響が続いている可能性を指摘しています。また、新コロ禍での受診控えにより持病が悪化したことや、老衰による死亡の増加も一因と考えられています。死亡者数の増加は、社会全体にも大きな影響を及ぼします。看護師や介護士など医療・介護分野の人材不足がさらに深刻化するだけでなく、火葬場など死亡に関わる社会インフラの不足も懸念されています。
東京都ではこのまま推移すれば2035年頃には火葬需要に対応できなくなる可能性があると試算されています。一方で、出生数も国の推計を下回る状況が続いており、日本の人口減少は想定以上のスピードで進んでいます。死亡者数の増加、平均寿命の伸び悩み、医療・介護人材の不足、火葬場など社会インフラの逼迫、そして出生数の減少による人口減少の加速・・。ひとつの問題が別の問題を生み、その問題がさらに新たな課題を引き起こす。日本の人口問題は、まさにカオスのような局面に入っています。
●私の視点~健康寿命の議論は、単純ではない~
前頁でも登場した「健康寿命」ですが、健康寿命が延びたからといって、それだけで喜べるわけではありません。これまでも言ってきたことですが、仮に健康寿命が75歳から77歳に延びても、平均寿命が85歳から87歳に延びていれば、介護や支援が必要な期間はどちらも10年です。もちろん、本人が健康に暮らせる期間は2年増えていますが、医療費の観点で言えば、増えてしまうかもしれません。
ただし、このことについては2週前の本メルマガで「健康寿命の延伸が医療費減に結びついている」という記事を紹介したばかりです。そこでも触れた通り、この課題について「こうすればこうなる」という仮説は成立しづらく、まずは「健康寿命を延ばすこと」にフォーカスするのは重要な戦略です。それによって「健康寿命75歳→82歳・平均寿命85歳→86歳」といった状況を実現するのがよいでしょう。説明するまでもなく、これだと介護等の期間は10年から4年へ短縮されます。「健康寿命の延びが平均寿命の延びを上回ること」が、目指すべき姿です。
とはいえ、このような議論は数字や理屈のお遊びです。現実は「ひとりの人間が1回しかない人生を生きている」のです。だから私は各自が「健康寿命を延ばそう」とするよりも、「人生の最後まで自分らしく元気に過ごせること(人生寿命)」を意識して生きる方が、現実的な目標になると思います。そもそも「将来の健康」は保証できません。どれだけ運動をし、食事に気を配り、十分な睡眠をとっていても、病気になることはありますし、事故に遭うこともあります。遺伝的な要因も無視できません。
私たちにできることは、結果をコントロールすることではなく、「健康でいられる可能性」を高めることです。その可能性を少しでも高めるために、日々の健康習慣を積み重ねる。その考え方こそが大切なのだと思います。還暦を超えた私は「10年前の習慣が今の自分をつくっている」ということを実感しています。健康寿命の議論は、単純ではなく、だからこそシンプルな習慣を続ける以外にやることはないのであって、その啓蒙こそが、健康産業に従事する者の使命だと思います。その自覚を持った人が、ひとりでも多く増えることが、結果として国民の健康寿命を延ばし、介護期間を短くし、社会全体の医療や介護の負担軽減にもつながっていくのだと思います。では、以下の質問の答えをアウトプットしてから次ページへ進んでください。
問1:あなたの仕事は上記のような日本の社会問題の解決に寄与するものですか?
問2:10年後の自分のために、今日続けている健康習慣は何ですか?
問3:問1、2の回答に対する課題はありますか?あれば今後、具体的にどう解決していきますか?
今週の一冊
●どうやってライバルに勝つか」ではなく、「どうすればライバルと比較されない存在になれるか」
本書はダイレクト出版から販売されているため、一般にはほとんど流通していません。Amazonでも8000円近い値がついています。それでも多くの経営者やマーケターが手に入れようとしているのかはわかりませんが、帯にあるように、あのジェイ・エイブラハム氏が高く評価するマーケティング本です。この類の本はあまり紹介しないのですが、最近、私が現場に近い仕事をするようになって、改めて「USP(独自の価値)の重要性」を感じ、かつ、自身の考え方を整理しておきたいことから、本書を紹介することにしました。どれだけ良い商品やサービスを提供していても、その価値がお客さまに正しく伝わらなければ、存在しないのと同じです。逆に、その価値が明確に伝われば、お客さまは価格や他社との比較ではなく、「これがいい」「この商品だから選びたい」と感じてくださいます。
本書が伝えているのは、「どうやってライバルに勝つか」ではありません。「どうすればライバルと比較されない存在になれるか」という、マーケティングの本質です。この考え方からは遠ざかっており、大きく頷きました。そこで重要になるのがUSPです。この時、本書でいうUSPは自社が考える「強み」や「選ばれる理由」ではありません。お客さまの頭の中に「この分野なら、この会社」という明確な想起をつくることです。人は何かを選ぶとき、提供する側が思っているほど、商品等を細かく比較検討しているわけではありません。もちろん、検索したり、AIに質問したりはしますが、その過程で最終的に選ばれるのは、お客さまの記憶に最も強く残っている商品です。
目指すべきは競争に勝つことではなく、お客さまの頭の中で思い出されるわかりやすいイメージを築くことです。本書以外でもジェイ・エイブラハム氏は「より良い商品をつくるだけでは不十分である。本当に重要なのは、お客さまから『他とは違う』と認識されることである」と繰り返し語っています。まったくその通りだと思います。価格や機能で競争するのではなく、比較されないポジションを築く。そのために独自の価値を明確にし、市場の中で新しい意味を創り出すことこそが、長期的に選ばれ続ける企業の条件であることを本書は教えてくれます。
●USPは広告のキャッチコピーや販促手法ではなく、企業の競争力そのもの
ここから私の考え方を展開していきます。日頃、多くのUSP(というのかキャッチというのか)を見ていて、ただの言葉選びになっていたり、他者との比較になっていたり、お客さまが選んだ理由を列記していることに疑問がありました。「それって、自社の商品やサービスを一言で表現したものではないよね?」と。例えば、「トレーナーが親切です」「サービスに自信があります」「地域密着です」「アフターフォローが充実しています」などと言われても、それだけなら住宅会社でも、美容室でも、八百屋でも同じです。「この分野なら、この会社」という明確な想起には程遠いと思います。
その意味において、「女性専用30分フィットネス」は最高のUSPといえます(1社しか思い浮かばない)。別観点では「お客さまが選んだ理由」をUSPと考える人もいます。「料理が美味しかった」「スタッフが優しかった」「施設が最高だった」などの理由は確かに価値があります。しかし、それは結果であって、USPではありません。そもそも、お客さまが商品やサービスを評価するポイントは人それぞれです。それをUSPにすることはできません。
繰り返しになりますが、USPは「選ばれた理由」ではありません。選ばれる前の段階で、お客さまの頭の中にどのような印象や認識をつくるかという視点で考えるものです。今回、改めて感じたのは、USPづくりをマーケティング担当者だけに任せてはいけないということです。なぜなら、USPは広告のキャッチコピーや販促手法ではなく、企業の競争力そのものだからです。経営者や経営陣が、「私たちは何者なのか」「世の中からどのような存在として認識されたいのか」を徹底的に考え抜かなければ、本当のUSPは生まれません。
さらに、USPは経営そのものを貫く思想でもあります。商品開発、サービス設計、営業、接客、情報発信まで、企業活動のすべてが一貫して同じ価値を伝えることで、お客さまの認識は少しずつ形づくられていきます。キャッチコピーだけで言葉の遊びです。日々の意思決定や行動の積み重ねが、お客さまの頭の中に唯一無二のポジションを築き、揺るぎない信頼へとつながっていくのです。本書を通じて、USPとはマーケティングの技術ではなく、経営そのものの在り方なのだということを、改めて深く理解することができました。
編集後記動画
当号のポイントを約3~5分の動画で振り返ります。
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編集責任者
・遠藤 一佳
【モットー】
・人生を常に再起動する
・自分の価値観に基づいた人生を生きる
・同志、仲間とともに、社会を良くする活動の一翼を担う存在になる
【役職等】
・Well-preneur Academy(ウェルアカ)塾長
・(株)スモールジム取締役会長
・JATIキャリア支援委員
